ハングタイム・ライターズ

何も見ない日はないのです。何も思わない日はないのです。

トゥジュール

<いのちの食べかた>


数年前、尊敬する板前さんに紹介していただき 

こんな映画をみました。

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防護服に身を包み、農産物に薬を撒く作業員

ベルトコンベアを流れてくる大量のヒヨコを淡々と選別する作業員

ラインのなかで、機械的に、効率よく解体されていく家畜

その合間に、従事する人たちの食事風景が流れる

効果音もBGMもナレーションもいっさいなし

ただ淡々と美しい映像が流れていく


『いのちの食べかた』OUR DAILY BREAD
監督: ニコラウス・ゲイハルター

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僕はいま、お客様の口に入る食べものをつくっています。

生産者や加工業者から届けていただいた素材を

どうしたらよりおいしく、安心、安全なものに昇華できるか

日々、試行錯誤しています。


自分でハーブを育てたり、土いじりをしていると

こんな小さな植物を育てるだけでも大変なのに、

普段私達が口にしている食材はどんなふうに作られているんだろう?
  
この食材は誰がどんな風に育てて、どこを通って、ここまできたのか?

と様々な疑問が浮かんできます。


出来るだけ生産者の顔がみえる安心、安全な食材や、

昔ながらの方法で、手間と時間を惜しまずつくった調味料などを

選びたいと思っていますが、

現代では生産、加工、流通、販売と全てが分業化されていて

それぞれの職業に就いていないかぎり、

どのように私達のもとへとどけられているのか、

よほどの労力を使って調べないとわかりません。

見えないものは、現代ではなかったことになっているのではないでしょうか?

生きていれば必ずでてくる、自分たちの排泄物でさえも

水洗トイレになってから、どこをどのように通って

誰がどんなふうに処理しているのか

知っている人はほとんどいないのではないでしょうか?

この映画のなかでは、その見えなくなっている、

無かったことにされてしまっている、

スーパーに並んだ工業製品のような食材などが、

どんなふうに生産されているのか、その一端をみることができます。

この映画をみて、何を感じるかは人それぞれでしょうが、

食育、食育と声高に叫んで、子供に田植えや、調理を実習させるよりも

よほど大切なものを教えてくれる気がします。

いま自ら選んで食べたものが、自分のからだをつくり、

今自分が調理したものが、家族の、お客様の明日につながっていくのだから、

精一杯の手仕事で、喜んでいただけるものを届けたい、

おいしくて、安全、安心な物を届けたいと努力する心ある生産者の方々と

繋がっていきたいとおもうのです。

わからないから、、、、安いから、、、、どれを選んでも同じだから、、、、

と思考停止したり、おざなりには私はしたくありません。

分業化により、死の現場を見えなくして、隠してしまうことで

「生きていくために、他者の命をうばう」という食の原罪が

無くなるわけではありませんし、

これを見たから急にベジタリアンになるとか、そういうことではなくて

日々、自らのからだの元となる「食べ物」を考えるなかで、

自然とそれを調理してくれた人、原材料を育ててくれた人へと

思いが向かいます。

いただいた命を大切にし、食の原罪から目を背けずに向かいあったとき、

自分は何を基準に選び、どうやって自然と付き合い、くらしていくのかという

「選択肢」をもてるのではないかとおもうのです。

世代を問わず、みていただきたい映画です。


『 TOUJOURS 』


〒681-0072    鳥取県岩美郡岩美町岩本688-45
TEL&FAX    0857-73-5070
営業時間     9:30〜19:00
定休日      水曜日
アクセス     ・JR岩美駅より車で5分
         ・イオン鳥取北ショッピングセンターより車で15分
         ・新温泉町より車で30分

トゥジュール

♡<フィナンシェ>

トゥジュールのイナキです。
今回は、ウチのお店でもマドレーヌなどのカゲにかくれて、
あまりお客様に手に取ってもらえない地味な存在、
でも凄いポテンシャルをもっていて、もっとたくさんの人に
食べてもらいたいお菓子「フィナンシェ」を紹介します。

名称未設定 1.jpgのサムネール画像
(Financier)


フランス語で『フィナンシェ:Financier』とは金融資本家を
意味するそうです。
形が金の延べ棒を模しているからとか、証券取引所近くのお菓子屋さんが
フィナンシェ(資本家)達が背広を汚さずに素早く食べれるように
考案した...との説もあるそうです。

材料はアーモンドパウダー、小麦粉、卵白、砂糖、ハチミツ、焦がし
バターというシンプルな構成です。
濃厚でコクのある味の決め手はアーモンドの風味と、
それを引き立てる役割の"ブールノワゼット:beurre noisette"と呼ばれる
焦がしバター。その名の通り、(ノワゼット=ヘーゼルナッツ)のような色と
香りにしたバターの香ばしさとコクがアーモンドの風味をいっそう高めてくれます。

ヘーゼル.jpgのサムネール画像
(シシリー産ビオのヘーゼルナッツ)

焦がしバターの作り方も作り手によって様々。
バターを鍋に入れて火にかけ、ヘーゼルナッツの色や香りがしてくる位まで
絶えず混ぜながら焦がすのですが、焦がしが足りないと香ばしさに欠け、
焦がしすぎるとバターの甘い香りやコクが消えてしまいます。
微妙な調整が、味の要となります。

バター.jpgのサムネール画像
(beurre noisette)

これらを使って作った生地を、高温でしっかり焼き込むことで香ばしい
風味豊かなフィナンシェが出来上がります。

近年様々な味やフレーバーのフィナンシェを目にしますが、油が出ていたり、
酸化していたりすることが多く本当に美味しいフィナンシェに
はなかなか巡り会えません。

ポイントさえおさえれば、混ぜて焼くだけというシンプルなお菓子なので
つくてみてはいかがでしょうか?

焼きあげて、ちょうど冷めた位のフィナンシェは外側はカリッと香ばしく、
中はしっとり甘い香りがただよいえもいわれぬ格別の美味さです。
フランスでは、朝焼いたものを裸で山積みにして売っていますが、
日本では大抵袋詰めにして販売するため、表面のカリッと感を味わえることは
ほとんどありません。いわば、自分で作った時だけの特権ですね。


15年前に覚えた、今でも最高に美味しいと思うフィナンシェのルセットです。

卵白         250g 
グラニュー糖     250g
ハチミツ       50g
アーモンドパウダー  100g
薄力粉        100g 
バター(焦がす)   250g

作り方は上から順に混ぜるだけ。
アーモンドパウダーと薄力粉はあわせてふるっておくこと。
ポイントはゴムベラ等で、できるだけ空気を入れないように混ぜること。
焦がしバターは50℃〜60℃くらいで加えること。
型はしっかりバターを塗っておくこと。
生地を絞ったら、3時間ほど常温で休ませてから焼くこと。

焼成温度や、時間はオーブンの機種や、使う型で変わってくるので
一概にはいえません。好みの焼加減を探して下さい。
ちなみに上の写真のものは 200℃/15min で焼いています。

この滋味溢れる味わい、是非たくさんの方に知っていただきたいと思います。

『 TOUJOURS 』

〒681-0072    鳥取県岩美郡岩美町岩本688-45
TEL&FAX    0857-73-5070
営業時間     9:30〜19:00
定休日      水曜日
アクセス     ・JR岩美駅より車で5分
         ・イオン鳥取北ショッピングセンターより車で15分
         ・新温泉町より車で30分

トゥジュール

♡<Opéra>

長く伝えられてきた食べ物には淘汰されなかった理由があります。
その土地でそのお菓子がなぜ育ったのか等の文化的背景まで知ること で、その菓子の味わいが幾重にも深まります。

相手の文化に敬意を払い、自ら学んでいく、、、隠れたエピソードを知り、存在の意味を知ると、その姿はぐっと 違って見えてくる······。

ルールの分からないスポーツを見ていても、何にもおもしろく ありませんが、ルールを知ることでその楽しみは倍増します。
知れば知るほど「もっと、もっと』楽しくなるはずです。

食べ物を提供するだけでなく、その背景までお伝えすることも僕たちの大切な仕事だと思っています。

そんなこんなで、今回は「オペラ」というお菓子を紹介します。

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<Opéra>

オペラはパリの「ダロワイヨ」のオーナー、ガヴィヨン氏が1954年に売り出したといわれています。
そのもとになったのはガヴィヨン氏の親戚である、ポール・ビュガ氏が買い取った「クリシー」という名店で1920年につくられた「クリシー」呼ばれる菓子だとか。

今ではパリを代表する菓子であるかのように、どこの店でも見られる定番になってます。
日本でも、自由が丘や銀座のダロワイヨのショーウィンドーには必ず並べてありますし、たくさんのお菓子屋さんで作られているのでご存知の方も多いと思います。

オペラは次の要素が層になっています。

・コーヒー風味のシロップを染み込ませたビスキュイ・ジョコンドと呼ばれるアーモンド風味の生地
・コーヒー風味のバタークリーム
・ガナッシュ(いわゆる生チョコです)
・そして表面はオペラ座をイメージした金箔などを飾ったチョコレートベースの豪華なデコレーション。

7層からなる重厚な佇まいは、まさにパリのオペラ座を彷彿とさせます。

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<パリ:オペラガルニエ>

とはいえ、バタークリームひとつとってもつくり方はさまざま。
こってりしたもの、あっさりしたものから、水分の多いもの、糖分の少ないもの。
またコーヒーの風味もインスタントコーヒーを使うこともあれば、コーヒー豆から抽出する場合もある。
チョコレートに何を選ぶか、シロップの量の多少・・・・。
これらの要素として何を選択するかによって味わい、食感が変わってきます。
コーヒーとチョコレートのみごとなバランスがオペラの身上といわれますが、そのバランスをどう解釈し、どう表現するかはそれぞれの作り手で違ってきます。

<コーヒーとチョコレート、2つの風味がひとつになった味わい>
生地の焼き具合、シロップの打ち方、クリームの配合、グラサージュのかけ方・・・
ひとつひとつの仕事を丁寧に積み重ねる事で求める味に近づけていきます。
生地はしっかりとミキシングをし、シロップをたっぷり吸い込みつつ食べると歯ごたえがあり、しかも口溶けのよいものに焼き上げます。
僕が作るオペラは、シロップにはコニャックをきかせて、コーヒーの風味をより一層高めています。
組み立てた後、一晩ねかせて一体感を醸しだします。
それぞれしっかりとした味わいのパーツを組み合わせますが、どれひとつ突出させることなく全体をまとめあげることに心を砕きます。

余計な飾りを削ぎ落としたエレガントな容姿と重厚な味わいの格式高い銘菓です。

トゥジュール

TOUJOURS♡トゥジュール

はじめまして。TOUJOURSのイナキです。

今春、郷里の山陰でケーキ屋をはじめました。

あくまでメインはケーキ屋なのですが、

石窯でちょこっとパンも焼いたりしています。

200年位前から伝わる『ガトー・ア・ラ・ブロッシュ』という

ピレネー地方の郷土菓子を薪で焼いたりもしています。

今回、様々な御縁からHung time Writersに仲間入りさせていただきました。

よろしくおねがい致します。


今、僕は「フランスの食文化」という借り物を使って、
『よく生きることは、良く食べること』をテーマに
郷里の山で集めた薪でお菓子やパンを焼いています。

そこからどんな物が生みだせるのか、まだまだわからないのですが

そんななかで考えたり、感じたことなどを綴っていけたらと思っています。

IMG_0130.JPGのサムネール画像のサムネール画像
(写真=井上亀夫)
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あの日、妻が「江戸の香りがするお客様が来られたよ」

と、厨房にいる僕に声をかけてくれなければ

こんな機会を頂けなかったと思います。

ヨメに感謝です!
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